ラベンダー湿布の効用
住江ブロック 岡田 宰治
【はじめに】
数年前からアロマセラピーという植物療法が本格的に日本に上陸し、医療をはじめ多方面で普及し、また注目を集めている。
私も4年前から研究をはじめ、臨床に取り入れているが、アロマセラピーは我々柔道整復師の業務との相性がよく、施術における成績も良好である。しかしアロマセラピーに対する柔道整復師の参加や理解度は、まだまだ少ないのが現状である。そこで、今回はアロマセラピーでは最もポピュラーであり、過去の報告例からも、安全性が高く、我々の業務にも応用度の高そうな真性ラベンダー油を使用して、実験することにした。
【目的】
真性ラベンダー精油(LAVANDULA AUGSTIFOLIA)の特性は、鎮痛、鎮静、抗炎症、抗菌、自律神経調整、血圧降下、抗痙攣、鎮けい、筋弛緩、瘢痕形成、鬱血防止、皮膚細胞再生作用などが報告されている。今回の実験では骨折、脱臼、捻挫、打撲、挫傷の新鮮例に対して真性ラベンダー精油を塗布した冷却シートを貼付して、疼痛と腫脹に対して、その有効性を検討することにした。
【方法】
真性ラベンダーの精油4滴、約0.2ミリリットルを市販の冷却シート1枚全体に塗布したものと、全く塗布せずに冷却シートのみを貼付したものの2種類を使用。
手指などの範囲の狭い外傷では、シートを2分の1に裁断し精油も0.1ミリリットルにて使用した。また今回の実験では、冷却シートの効能は無視してラベンダー精油、塗布の有無により検討した。
これらを腫脹をともなう新鮮外傷(98年3月15日から99年3月27日までに当院に来院した新鮮外傷例合計100例)の外来患者にたいして処置し、初診時より5日間の疼痛、腫脹の状態を検討した。疼痛の判定は初診時を10として、以後患者に残存度を毎回自己申告してもらい記録した。腫脹は同じく初診時を10として、その後の状態を術者が観察し、残存度を記録した。
ラベンダー塗布冷却シート群50例と冷却シート群50例にわけて比較検討した。
なお、全対象患者に、上記以外にも通常行う外傷に対する施術や処置は行った。(冷却、圧迫、軸圧、固定など)
未使用群リスト.pdf
ラベンダー群リスト.pdf
症例別の比較図.pdf
【結果】
図1は疼痛 冷却シートのみ使用群 図2は疼痛 ラベンダー塗布冷却シート群
図1.pdf
図2.pdf
図3は腫脹 冷却シート群 図4は腫脹 ラベンダー塗布冷却シート群として面グラフで表示した。5日間の疼痛や腫脹の残存度は面の合計面積に現れるようにした。
図3.pdf
図4.pdf
各図の横軸に症例数を、縦軸に疼痛、腫脹のスコアを記載した。
まず疼痛の比較では、初診時の10(100%)に対し、再来院時(回復の経過を色分けした面にて表示)図1.2.ともに軽減されているが、(図2)ラベンダー塗布冷却シート群では、(図1)冷却シートのみ使用群に比べ、特に4−5日後において、より疼痛の軽減度が大きいことが解る。
補助資料 疼痛比較図.pdf
補助資料 腫脹比較図.pdf
次に腫脹の比較だが、(図4)腫脹 ラベンダー塗布冷却シート群は疼痛の比較よりもさらに(図3)腫脹 冷却シート群との面積差は大きくなっていることが読みとれる。この図の比較からラベンダー塗布冷却シート群は腫脹の消失までの時間は著しく短縮されていることがわかる。
ラベンダー塗布冷却シート群の場合、これらの図からは不十分ではあるが、治癒までの期間もかなり短縮されていることを実感した。
また、ラベンダー油塗布の全症例で皮膚のかぶれなどはなかった。
その他では、多数の患者から、その香りについて「良い香りである」「落ち着く」との反応があった。ラベンダー油の香りはその鎮静作用から、新鮮外傷時の緊張状態にある患者に対し作用したようで好評であったことを付記する。
【考察】
この判定に使用した「疼痛」と「腫脹」は、ともに主観的な部分が多く、客観性が低いので、この実験を有益なものにするために、できるだけ多くの症例を観察し検討することが必要不可欠であった。観察期間について初診時より5日間を対象にした理由は、長期間なると管理が難しくなること。回復に伴い来院回数が減ってくるので、参考になりにくくなること。これ以上短いと期間内の再来院が少なくなり参考にならないこと、などを考慮して決定した。
今回精油の量を0.2ミリリットルにした理由は0,1ミリリットルであれば、冷却シート全体に広がりにくく、0.15ミリリットルであれば2分の1にしたときに1.5滴となり、実験しにくいため、また、これ以上は必要ないと考えたために、この量になった。冷却シートを使用した理由は、香料としてのメントール以外、薬剤がはいっていないこと。揮発しやすいラベンダー油を患部に密封するのに都合がよく経皮吸収させやすいこと。このようなシートまたはシップを貼らないと、新鮮外傷時に患者の理解を得にくいこと、などである。
ラベンダーの効能については、私も火傷の場合の顕著な効果を自分で体験したことがあるが、その疼痛に対しての効果と回復度には、びっくりさせられたものである。
今回の実験では、実際の臨床では図1−4の新鮮外傷の疼痛や腫脹の変化を見るまでもなく、回復の速さは一目瞭然であり、治癒日数が大幅に短縮されたと実感出来るほどの回復度があることがわかった。さらに揮発した香りによる副次的効果も期待でき、施術時の付加価値になる可能性がある。
ラベンダーの成分については主成分の酢酸リナリル、リナロールをはじめとして、100種類以上の化学成分によって出来ている。今回検討した疼痛、軟部組織損傷などによる腫脹にたいしてはエステル類の酢酸リナリルが中心となって、鎮痛、抗炎症、鎮静などに作用し、モノテルペンアルコールのリナロールを中心として、鎮静などに作用していると考えられるのだが、その他の成分も関与しているようである。
文献によると「ラベンダーの作用はまず第一にバランスを保ち正常化という事実です。」とある。このことから多くの成分が絶妙のバランスで作用することで、数多くの特性を発揮し多くの症状に作用するという。このなかのどれか一つを取り出してみても、おそらくは、同じ効果は出せないだろうともいわれている。ここに人工では得られない自然界の不思議を教えられ、それらに畏敬の念を持たざるを得ない。
また参考までに、同じ真性ラベンダー油でもメーカーによって品質に差があるので、実際に使用される場合は、日本アロマセラピー学会の資料や情報などを参考にして、確かなものを使用していただければと考えている。
最後に、この発表が少しでも柔道整復師にとって有益なものとならんことを願っている。
1999年6月13日 日本柔道整復師会(近畿ブロック学会)発表論文
参考文献
〇THE AROMATHERAPY PRACTITIONER REFARENCE MANUAL Sylla Shepard-Hanger
Aquarius Publishing 1996
〇アロマセラピー完全マニュアル 水嶋 昇 監修 草隆社 1997
〇アロマトピア2号 フレグランスジャーナル社 1993
〇精油の科学と使用法シリーズ1 ラベンダー油 ジュリア.ローレンス著
高山 林太郎 訳 フレグランスジャーナル社 1996
〇芳香療法の理論と実際 ロバートティスランド著 高山 林太郎 訳
フレグランスジャーナル社 1985
〇アロマテラピー事典 パトリシア.デービィス著 高山 林太郎 訳
フレグランスジャーナル社 1997
〇ケモタイプ精油事典 ナードジャパン事務局編 1998
〇エッセンシャルオイル図鑑 ジュリア.ローレンス著 東京アロマセラピーカレッジ
1998